楽毅(宮城谷昌光・著)

古代中国の天才将軍・楽毅を描いた宮城谷昌光さんの小説を読みました。

大国・趙に圧迫される中山国の宰相の息子として生まれた楽毅を描く物語ですが、正直なところ最も魅力的な登場人物は時の趙王・武霊王でした。

革新的な王であった武霊王が国内の守旧派を説き伏せて軍制改革を行い、天下への野心を見せる。とっても独善的な中山国王にも問題がありましたが、ほぼ武霊王の野心のとばっちりで楽毅の人生が翻弄され、それによって鍛えられ成長していく物語が、全体の4分の3。

その間、巨大な敵である武霊王に立ち向かうために、斉の孟嘗君とひそかにつながったり、策を凝らしたりといった楽毅の苦難にも引き込まれますが、強く強大な武霊王が徐々に崩れていく様にも強く惹きつけられました。

賢く強く自ら恃むところの大きい武霊王が、他人の心情を理解することができず、最期は息子に包囲され餓死にいたる。

武霊王の存在感の大きさに翻弄されてきた楽毅自身の喪失感にもまた、胸を打たれます。武霊王に中山国を滅ぼされ、一度は武霊王の臣下となることを選んでおきながら、正式に臣従する前に息子に討たれる。

その後、燕の将軍となって斉を討つ楽毅の活躍の前半生が、ほぼ武霊王の存在に塗り潰されていたという展開の中、武霊王の栄枯盛衰にどうしても目がいってしまいました。

亡国の遺臣としての寄る辺なさの前に、国の最後まで義を貫き武霊王に抗う楽毅の戦略戦術に、一緒になって武霊王に立ち向かうような感覚を得ました。最後まで抗戦し、武霊王に苦戦させた積み重ねのあとだからこそ、亡国の遺臣となった楽毅の喪失感が際立ちます。

武霊王そして自らの運命という大きな壁に立ち向かい続ける楽毅に、胸の熱くなる展開でした。

楽毅といえば大国・斉を滅亡寸前まで追い詰めた名将軍として有名ですが、むしろそれまでの物語に強く惹きつけられたのが宮城谷さんらしい物語運びでした。

読後感

できることを確実にやる。という楽毅の姿勢に魅入らせられる物語でした。物語中では「人が見事に生きるとはどういうことなのか?」という楽毅の問いから始まりますが、できることを確実にやるという小さく泥臭いことを疎かにしない楽毅の生き様に、まさに見事なものを感じる物語でした。

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