戸川猪佐武さんの小説『小説 三木武吉』を読みました。
「小説」と冠していますが、戦前戦中戦後の政治家三木武吉さんを扱った作品です。策士中の策士として扱われることの多い三木武吉さん。中曽根元総理が金丸副総裁を持ち上げるのに「三木武吉以来の人」と言ったとも聞きます。
現在ではほとんど政治資金規正法とかメディアとかに大バッシングを浴びるような政治家ばかりが登場する時代ですが、どうしても「スケールが大きい」という感慨を抱かざるを得ませんでした。今同じことをしてる政治家がいたら確実に非難するだろう自分も感じながら不思議な気持ちです。
支援者からお金を受け取ったところに(今なら受け取った時点でアウト)、子分が来てお金がないと訴えたら、今もらったお金を全部渡してしまう。支援者が呆れていると平然と「ボクにはキミがまたくれるだろう?」と言う。この言動が憎めないキャラとして受け止めてしまうので、時代を感じてしまいます。
ハイライトはいくつもありましたが、自由党と民主党を合併させ自由民主党を結成させるくだりが最も心に残ります。「誠心誠意、嘘をつく」という言葉を残した三木武吉の政界工作によって、多年いがみあってきた政治家たちを結集していきます。
どうしても欲得利害に感じてしまう昨今での政党の離合集散に対して、またブラックボックスとして眉をひそめてしまうような水面下の根回し・工作が爽やかに感じられるのは筆者の視点に誘導されていたのだとしても、行動に信念を感じられるからではないかと思いました。
ないものねだりをしても仕方ないのですが、このような政治家と一緒の時代を生きてみたいものです。同時代にいればキライになるのかもしれませんが。
読後感
政治を舞台にした小説ですが、政治にダイナミズムがあった時代という感覚が強く残りました。数十年前の日本を舞台にしていますが、数十年後に現在を見返すとダイナミズムを感じてしまうものなのでしょうか。政策・法律・制度・行政といった現実とは別に、人間ドラマとして政治の世界を眺めるとき、第二次世界大戦の開戦・終戦といった国難の時代だからこそスケールの大きな政治家が次々現れたのか、戦後の国葬一例目として話題に上った吉田茂さんと対峙した三木武吉さんの生涯を通じて考えるところが多かったです。単純にカッコイイと感じたのが率直な読後感でもあります。